『夢』

【監督】 黒澤明
【出演】 寺尾聰、倍賞美津子、原田美枝子、いかりや長介、マーティン・スコセッシ
【公開】 1990年 日・米 119分
【ジャンル】 ファンタジー

現実の世界と理想の世界は、あまりにもかけ離れている。

予告編

あらすじ

「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨士」「鬼哭」「水車のある村」の8話からなるオムニバス形式。黒澤明自身が見た夢を元にしていると言われている。各エピソードの前に、「こんな夢を見た」という文字が表示されるが、これは夏目漱石の「夢十夜」における各挿話の書き出しと同じである。

感想・見所

この作品は作家性が強く、イメージによってメッセージを読み解く作品なので、物語を楽しむという作品ではない。ただし、黒澤明のイメージする世界観が最も画面に反映されている映画だと思う。色彩は黒澤作品中ナンバー1にきれいだ。今まで見たことない景色が作り出されている。

夢をテーマとしているが、それは監督の幼少期の夢であったり、また悪夢だったり。また戦争体験による夢であったり。また画家ゴッホを登場させ、有名な「ひまわり」が描かれた田園の中に入り込んでしまったりしている。そして未来を連想させるような夢。

この作品の中にあるそれぞれの夢は、観客が観る視点で受け方は違うだろうし、また時代が移りゆく中で、見方・感じ方も変わってくるものだと思う。一貫して黒澤作品は精神世界を描いてきたと思っているが、唯一この作品はその精神世界に入り込んでしまっている作品だ。そしてその人の心にある光と闇の部分を描き出している。描き出されているのは、夢なのか現実なのか判断がつかない微妙なところ。夢ではあるが、それらはすべて現実でもある。形を変えて現実社会に存在するものだ。だからある意味この8つの夢は、これまでの人類の歩みであり、これからの歩みであると見る事もできると思う。

人の心が映し出されているのが現実で、現実は人の心が形成しているもので、そこに境目は存在しないのかもしれない。だから社会から悪がなくならないように、私達の心にも闇の部分や悪の部分が存在していると。そう考えるとこの映画は、人間の恐ろしい部分を描き出している作品と言える。

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