『 仕事と年齢にとらわれないイギリスの豊かな常識』を読んでみて。

仕事と年齢にとらわれないイギリスの豊かな常識

2002年に書かれた本だけど、10年以上経ってもあんまり日本って変わってないのかなと思う。イギリスの生活スタイルが人間的だよねって事を言っている本だけど、相変わらず日本人は働き蜂と化したまま。ノマドなんて言葉はあるけど、それもごく一部。

社会システムの中で人は生きているので、なかなかそのシステムの常識から逸脱する事は難しいんだなと思う。

『仕事と年齢にとらわれないイギリスの豊かな常識』井川慶子 著

第一にどう生きたいか、その次に仕事がある

イギリス北部のノースヨークシャー。ひっそりと農家が建つきれいな田舎町。ここには都会から引っ越してきた人が生き生きと暮らしている。

「どこにいても何かしらの仕事はできる」エンジニア夫婦の場合

彼らは都会で一流企業に共に勤めていたが、都会の生活に息が詰まって、ここに一軒家を購入し移住した。仕事のあてなど全くなく無計画に移住したが、妻はピアノがとてもうまく、村には音楽を教えられる人がいなかったため、ピアノの教室を開く事でフルタイムの生活が得られた。一方の夫はセンスの良さを買われて、ホームページ制作の仕事につき、今では都会暮らしの時と変わらない忙しさだという。でも前のような切羽詰まったような生活ではなく、自由を感じつつ暮らしている。

「フルタイムがすべてではない」配管工の男の場合

配管工の仕事をしている男は、30歳でフルタイムの仕事をやめて、仕事は週3日にしている。彼のスケジュールはこうだ。月〜水曜日は配管工の仕事。木・金曜日は家のメンテナンス、土曜日は子供と遊び、日曜日が休息日。
妻はフルタイムで働いているので、なんとか生計が成り立っている。収入は7〜8万円減ったが、豊かな生活を送れているという。彼が何よりも良かったと語るのは、週の半分を家で過ごせるので、子供達の成長を見守る事ができた事だという。
ちなみに長年かけて行った家の改装工事は、業者に頼めば2000万かかるところを、800万で仕上げただけでなく、10部屋増えた彼の家は評価額が7倍にも膨れ上がったそうだ。週休4日の生活を送りながら、見事な価値を生み出した。

彼曰く「Money is not the object.(お金が最終目的ではない)僕は日本人のように家族から離れてがむしゃらに働く事はできない。たとえ自分に能力があったとしても、仕事が中心の人生を選ぶことはないと思う。職業訓練校に通ってみよう見真似で配管工になった僕は、家族や友人がいて、みんなと共に過ごす自由な時間があった。社会的地位も貯金もないけど、週3日だけ働くスケジュールで生きてきた僕は、どんなエリートよりも楽しい人生を過ごしてきた。それだけは間違いないよ。」

僕はワーカーホリックだけど、そうした時代は終わったのだと思う。ノマドやニートなんて言葉が流行っているけど、それは社会的な風潮が変わりつつある中で自然と生まれてきたように感じる。仕事はどんどんデジタル化して機械化している。今までのような労働力は必要なくなる。
そんな時代に何もがむしゃらに働く必要が社会に必要なのか。もちろん生活の為に労働して対価を得なければ、今の社会システムの中では生きていけないけど、少なくとも今までのような働き方は必要ないし、もっと生活スタイルも人間らしい生き方に戻っていくような気がする、日本もね。海外ではアフター5をすごく大事にして、スポーツやコミュニティ活動を楽しむ傾向にある。日本ではちょっと考え難い。せいぜい飲みにいくくらい。

労働の本質を考えさせられる「ワークシェアリング」

イギリスのある村にひっそりとたたずむ1軒のカフェ。ここには6人のスタッフがいて、みな50代の主婦だという。彼女らは持ち回りでカフェを運営している「ワークシェアリング」の形でカフェを運営している。自給にすると500円にも満たない金額だが、彼女らはお金のために働いているのではないから、それで満足だという。

あるものはケーキを焼くのが得意なので、ケーキをカフェに持ち込む。あるものは1日3時間だけ労働している。ある者はカフェ以外に一人暮らしの老人の家に毎週通っている。それ以外にも週2回、成人学校で英語を教えている者もいる。

彼女たち曰く、「もし主婦業だけをしている人生だったらきっと満足しなかった。かといって若い頃のようにキャリアや収入を追及するのはきつい。だから自分の自由な時間の中で、すこしずつ働くのがベストなのよ」

イギリスは産業革命に始まり、最先端の生活スタイルを生み出してきた国にでもある。しかし近年の経済発展に対して、どこかで物質社会に染まり始めた自国に強い懸念を抱き、伝統的に培われてきたイギリスを大切にする人は、ゆるやかで地道なライフスタイルにUターンを始めているという。金儲けよりもボランティアを重視したり、あえてフェアトレードを事業に組み込んで、自分のしていることが誰かの役に立つようなイギリス人本来の生き方を大事にしようと考え始めた。

インターネットが普及した事で、家庭にいる主婦でも稼げるし、逆に家庭に入ってアフィリエイトで生計を立てる主夫もいる時代。労働の仕方も少しずつ変わってもきている。がむしゃらに好きでもない仕事をし続ける昭和の時代は、もう終わったのかな。その証拠がノマドな訳だし。

時間の使い方の概念も変わってくるかもしれない。これまでのような8時間労働、週休二日。日本にはバカンス制度もない。有給休暇を使っても、周囲の目があるからそんなに長くは取れないし。育児制度も言われるほど進んでいるとは思えないけど、制度の乗るよりも自分で生活スタイルを換えてしまう方を選択する人が、これから増えてくるのかな。やっぱり自分の子供との時間を大切にしたいっていう思いは、人間としての根源的な欲求だろうし。

イギリスでは80%が年を取ると住まいをスケールダウンして暮らす。

シルバーデイルと呼ばれる町は、すっかり高齢者の町になっている。高齢者にやさしいこの町では、退職した人たちが集まってくるから。でもこれが日本ではそうはうまくいかない。日本でも定年退職者を対象にしたスローライフをうたった、地方での受け入れが進んでいた。しかしそこに引っ越してくる人たちの間で不満が続出して、都会にUターンしてしまう人が多いという。また物価の安さに魅了されて、海外に移住していく日本人もなじめずに帰国する人が多そうだ。

イギリス人が分析している。「イギリス人は生まれたときから両親とは別の部屋で育ち、18歳になると家を出る。仕事・結婚も身内を頼らずに自分で決めて育つ。基本的に自立心が強い。それに比べて日本人は異質な人に対するコミュニケーション能力が低い。イギリスでは高齢者が若い人を友達にすることも普通に存在するし、付き合う国籍も気にしない。でも日本人は自分の属しているものに縛られている。パーティ会場であれば日本人同士がすぐにかたまり、しばらくすると年齢や出身地でさらにかたまってしまう。新しい人との関わりが下手なんだ」

本質的な部分に目を向けろ

「名刺を取ったら何もない」それが日本人

日本では「どこで働いているのですか?」と質問するが、イギリスではそれが「何の仕事をしているの?」になる。日本では会社名がはじめにくるが、イギリスでは仕事の中身の話をする。「トヨタです」といってもどんな仕事をしているにかわからないからだ。「トヨタでサラリーマンをしています」と言っても、製造なのか営業なのか人事なのかわからない。

同じように、「大学はどこに行っているの?」に対して、「何を専攻しているの?」になる。つまり中身が重要であって、東大だろうが早稲田だろうが、関係ない。とても見栄を張る、体裁を気にする日本人らしい部分だ。

家を買う前にパブに行く!

イギリスではこう言われている。その地域のことがパブに行くとわかるからだそうだ。あるカップルがコーンウォール地方の町に行って、その景色に一目ぼれして、その町にテラス付きのきれいな家を発見して購入を考えパブに行ったそうだ。しかしそのパブには、うつむいた男達がグラスを傾けていたり、異様に騒ぐ若者達がいて、何か不穏なものを感じて、地元の警官に話を聞いたところ、その地方一のドラッグタウンだったそうだ。

日本では家を買う時に、家のことばかり考える傾向にある。その土地のことや環境は二の次になりがちだ。地震大国でもあるわけで、東京で家を買うならまずは地盤を確かめたいところ。

イギリス人は家を借りる時ですら、地元のパブに3回は通うそうだ。そこで生活している若者から高齢者まで、未来の隣人の姿を想像するために。駅までの距離を気にするよりも、地域性を重視する。バーのマスターの話も重要なバロメーターになるそうだ。

わずらわしい近所付き合いのないところを選びがちな今の日本人とは大違い。シェアハウスやギークハウスなんかが取りざたされているけど、昔の長屋暮らしとか結構あこがれだけどなあ。

年齢にこだわる日本人

チャールズ皇太子とカミラ婦人の不倫関係が公になってから、イギリス国民の間でも若くてきれいなダイアナを差し置いて、なんでカミラなんだという意見が大半だったそうだ。しかしなぜチャールズ皇太子がカミラを選んだのか。それは日本人には理解しがたいかもしれない、若さだけの魅力ではない、パートナーに求める本質的な部分での話。

カミラは皇族という特殊な世界を理解し、チャールズ皇太子の心の支えとなっていたのだ。一方で皇室のあり方を最後まで理解ができなかったダイアナには、若さと美貌だけで、心を開く事ができなかったというもの。

一方で日本人はどうか。日本には若さ至上主義がある。どこにいっても年齢がついてまわる。最近は改善がみられるが、就職するにしても履歴書に年齢は必須。男女が出会っても「何歳なの?」となる。

この年齢へのこだわりは男性社会が作り出したと言える。「キャバクラ、クラブ」といったお金を払って女性に接客してもらう制度、お金を払って肉体関係を若い子と結ぶ援助交際。若い子への崇拝が日本人には基本的にある。欧米人にすると夫が妻にするべき事を、お金を払って他の女性にしていると、不思議だという。

だから70歳を越えても恋愛して結婚する人が多い欧米人を日本人は理解できない。欧米ではパートナーシップを大事にする。日本では結婚したらそれで終わりといった感じがある、妻をないがしろにして。

欧米人は、何歳になっても妻を女性として扱うし、いつまでも大切なパートナーと考えて接しているから、ラブラブな期間が続く。日本は結婚するまでの期間が恋愛対象であって、結婚してからは同居人になってしまいがち。日本人はパートナーシップの本質を理解していないのだろう。結婚という形式的な事が重視されてしまう。

たしかに制服や校則といった決まり事が、幼い頃から日本人を縛っている。一面では協調性を養う事にもつながっているだろうが、一方では自分で考えて行動する自立性や、物事の本質を考える力は劣ってしまい、レールに沿って生きるという生き方が染み付いてしまっている。

あなたのお金が使われている事を知るべき!

運転免許の書き換えの時に配られる交通安全の手引き書は、いまや日本一のベストセラーだ。書き換えが終わった者が真っ先にやる事は、手引きをゴミ箱に捨てる事。欲しくもない手引書は更新料でまかなわれ、その利益は特定の業者へと流れていく。必要ない物にこの国はいつまで金をつぎ込むのだろう。

気になる部分を抜粋したけど、出版から10年経ってもいても、十分に通用する内容という事は日本があまり変わっていない証拠だろう。どうも私たち日本人は、体裁とかモラルを気にし過ぎてしまうのかもしれない。本来、モラルなんて個人の価値観で持つべきものなのに、世間一般がモラルになって、行動規範になってしまっているのかもしれない。いやそうなりやすいんだと思った。

まあ仕方ない。そういう教育制度の中で育ち、日本文化に染み付いた生き方が通念としてあるのだから。でも井川さんが言うように少しずつでも、こうした考え方を取り入れていく事は大切かなと。結局は個人個人の意識の問題で、「どう生きたいか」をよく考える必要があるって事。なかなか思い通りにはいかないもんだけど、考える事がまずは必要なんだろう。

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井形慶子(いがたけいこ)について
井川さんはシンプルな生き方をしている感じで好感が持てる。まあその書籍には賛否両論あって、日本バッシングがひどいとする意見も結構あるけど、言ってる事は至極真っ当な事で真意を突いていると思う。まあイギリス被れと見る人は、外から日本を見た事ない人なんじゃないかな。ちゃんと読むと、真逆で日本大好きな感じが伝わってくるし、日本を愛するからこその意見だと思う。

ちなみに井川さんの本は絶版になっているものも多いので、古本をどうぞ。

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